Keyrock Capital Managementによる国内初のフォローオン投資 総額45.7億円のシリーズBラウンドの裏側を振り返る
月極駐車場管理SaaS「Park Direct(パークダイレクト)」(https://www.park-direct.jp)を提供するニーリーのシリーズBラウンドにおいて、Keyrock Capital Managementは国内初となるフォローオン投資を実施しました。コーポレート統括本部 ファイナンス部長の萱原正崇と、Keyrock Capital Management シニアアドバイザーであり、ニーリー社外取締役でもある内河俊輔氏の対談を実施。出資の背景や、昨今の資本市場の動向、今後のニーリーへの期待などをお聞きしました。
Keyrock Capital Management シニアアドバイザー
内河俊輔 Shunsuke Uchikawa
1998年、ソロモンスミスバーニー証券(現シティグループ証券)入社。同社投資銀行本部マネジングディレクター、M&A本部 本部長を歴任。2018年、株式会社マネーフォワードに参画。執行役員CFOに就任し、財務戦略を推進。2020年、株式会社STREAMを設立し、代表取締役に就任。Keyrock Capital Management Limited シニア・アドバイザー、Micoworks株式会社 社外取締役、株式会社ゼロボード 社外取締役、株式会社LayerX 社外取締役および弊社社外取締役を現任。
株式会社ニーリー コーポレート統括本部 ファイナンス部長 萱原正崇
東京大学法学部卒業後、新卒でリクルートに入社。住宅事業の営業、事業開発を経て、FP&Aに従事。その後、全社経営企画、および、グループ持株会社(リクルートホールディングス)にて財務に従事。2022年にfreeeに入社。FP&Aとして、全社事業計画の策定や事業拡大に伴う管理会計刷新に従事。2023年10月にニーリーに入社。事業計画策定 / 資金調達 / 資本政策等のファイナンス関連領域を担当。
改めて感じるニーリーの強みとは
萱原:はじめて内河さんに取締役会に参加いただいたのは、前回ラウンドクローズ後の昨年9月頃だったと記憶しています。その頃に抱いたニーリーの印象と現在の印象で変わった部分はございますか。
内河氏:実は当初感じた印象からは、いい意味で変わっていないんです。最初の印象通り真面目な方ばかりですし、代表の佐藤さんがエンジニア出身ということもあり、現実を適切に捉えながら、設計したパズルに対して一つひとつのピースを精緻に当てはめているな、と感じています。
ニーリーさんの展開する「Park Direct」においては、プロダクト開発だけでなくオペレーションもきちんと回していく必要がありますよね。一年前も今も、それを非常に高いレベルで実行できている会社だという認識です。
萱原:ありがとうございます。当社では今年度から、エンタープライズ企業へのGo to Marketを強化するための体制変更*なども行っていますが、こうした戦略面で何か感じられていることはございますか。
*2024年の組織のアップデートに関する記事はこちら
「顧客価値により向き合える組織体制に~ニーリーが仕掛ける組織のアップデート~」
内河氏:パズルのピースを当てはめていくこととパズル自体の設計は異なる営みです。更なる事業成長を実現するためには、パズルの設計自体を見直すことも重要であり、その観点で、今回の体制変更は非常にポジティブに捉えています。
ステークホルダーとの議論を通じて、事業マネジメントの高度化を実現
内河氏:初回投資後、これまで蓄積されてきたKPIデータを見せていただきながら、もっとこうした指標があると良いのでは、といった提案もたくさんさせていただきました。パズルのピースを精緻に当てはめていくことができる、という強みを最大限活かすには、どのようなパズルを設計するかが重要であり、その設計には適切な指標とそれに基づくデータが必要不可欠だと考えています。貴社とは、適切な指標をいかに設定していくかについて共に試行錯誤しながら議論できる関係を構築できており、非常にありがたく思っています。
そういった点で、取締役会資料の情報解像度が非常に高く助かっています。月に一度の取締役会にしか参加しない自分でも、パッと見て現状と課題が理解できるものになっていると感じます。外部のステークホルダーにとってもわかりやすい資料作りは、今後新規投資家に関心を持っていただく上でも大切ですので、ぜひこれからもブラッシュアップいただきたいです。
萱原:「Park Direct」はいわゆる一般的なSaaSとは異なるビジネスモデルではありますが、それでも事業マネジメントにおいて他のSaaS企業のプラクティスを応用できる余地は多いと考えています。国内外問わず多くのSaaS企業への投資実績のあるKeyrock・内河さんだからこその視点をフィードバックいただくことで、新たな気づきを得られ、アクションに繋げられているので、この点も非常にありがたく思っています。
内河氏:意思決定したアクションの進め方・コミットメントに安心感があるのも、ニーリーさんの強みだと思います。
たとえば、今回の資金調達の意思決定もそのひとつです。今回の資金調達は、「現在起きているさまざまな変化に対応しながら事業をより成長させていくためにも、しかるべき投資を行い土台をちゃんと作ろう」という事業計画コンセプトがきっかけだったと認識しています。
その上で、投資を拡大することによりランウェイ(企業がキャッシュ不足に陥るまでの残存期間)が短縮化することに対して、どのように対策を講じるか、について議論をさせていただきました。その結果、「想定よりも早いタイミングでの資金調達かもしれないが、積極的にやっていこう」と合意がなされ、今回のラウンドに至りましたよね。結果的に、想定調達額よりも多くの金額を集められたのはすごいことです。
クロスオーバー投資家からみたスタートアップを取り巻く環境とは
萱原:ところで、内河さんは国内外問わず数多くのスタートアップを見ていらっしゃると思います。せっかくの機会なので、資本市場から見た昨今のスタートアップを取り巻く環境について所感をお聞かせいただけますか。
内河氏:現在の資本市場は、上場・非上場問わずスタートアップにとって厳しい環境です。というのも、複数の米国VCが出しているデータ*によると、2017年頃の投資に対するリターンがまだほとんど実現していないのです。
*出典:VC Fund Performance: Q1 2024, Carta
https://carta.com/data/vc-fund-performance-q1-2024/?utm_source=substack&utm_medium=email
(2024年8月参照)
米国では直近でもスタートアップのIPO案件が限定的で、VCがEXITできない状態が続いています。日本ではアストロスケールやタイミーのIPOでマーケットが回復しつつある兆候も見て取れますが、米国でIPOマーケットが回復しないと日本においても真の意味でマーケットが回復しきらないと考えています。そして、IPOの見通しが立たないと積極的に未上場投資を行うことが難しい。このようなどこかスッキリしない状態が2〜3年続いてもおかしくないとも思います。とはいえ私はあまり悲観的には捉えていません。
米国ではSaaSの成長は終わりつつあるという空気があり、それを打ち崩すのは並大抵のことではないでしょう。一方で、SaaSの歴史でいうと日本は米国より5〜10年ほど遅れています。そう考えると、まだまだ成長する余地はあるはずです。したがって、自分たちが考えるべきことは、いかにグローバルのファンドマネーを日本にアロケーションできるか、ということであると思っています。ニーリーさんをはじめとして、高成長を成し遂げている面白い会社はどんどん出てきています。数十億円単位での資金調達ニーズを有する会社も多く、力強さを感じているのもまた事実ですね。
萱原:「高成長中の面白い会社」という言葉が出ましたが、内河さんが面白いと感じる会社の共通点はありますか。
内河氏:まずはTAM(Total Addressable Market、獲得可能な最大の市場規模)が大きく、当該市場におけるマーケットリーダーであり、経営陣が組織の継続的拡大を牽引する求心力とハングリーさを持ち、ステークホルダーをどんどん巻き込むことができる会社でしょうか。
本当の意味で自分がどのような会社に惹かれるのかは、自分でもシャープに言語化できているわけではないのですが、経営者と話している時に、ピンッとアンテナが反応するように急にスイッチが入る感覚でしょうか。おそらく、そのスイッチが入るのは、今まで自分が持っていなかった視点を感じた時です。また、経営者が「どれだけ野心を持っていて意欲的なのか」も無意識に考えているかもしれません。経営者から感じられるパワーの大きさが影響しているように思います。
非常に高い目標に向かってコミットしている人って、ずっと道半ばにいるようなものなんですよね。私なんかはひとつ何かを成し遂げたら一回休もうと思ってしまいますが、それがない。理想に対して、今自分ができていることはほんの一部であるという感覚を持ち続けています。この感覚を持った経営者にお会いすると凄いなあと尊敬します。そしてその目標をみんなと共有して、従業員や顧客、ステークホルダーに自分のビジョンを見せ続けられるのが強力なリーダーだと思いますし、そういった経営者と会った時にグッと惹かれる感覚がありますね。
Keyrockはなぜフォローオン投資を決めたのか
萱原:今回、Keyrockさんより国内初となるフォローオン投資をいただきましたが、この意思決定の背景や理由について改めてお聞かせいただけますか。
内河氏:実を言うと、最初からフォローオン投資を決めていたわけではなく、本当にやるべきか社内で真剣に議論しました。
先程もお話しした通り、現在の市場環境は決して良いとは言えません。そのような状況で追加で投資を行い、更なるリターンを実現できるのか、私たちのLPが求める時間軸でリターンをお返しできるかがポイントでした。ニーリーさんがいい会社であることは十分に理解した上で、この点を慎重に検討しました。
なぜフォローオン投資を決定したかというと、初回投資時のデューディリデンスで議論させていただいた目指すべき状態により近付いていっており、そのスピードが加速していることを、定量的な分析を通じて確認できたためです。また、萱原さんのような方が参画し、今回の資金調達にコミットしてくださったように、組織が強化されてきているのも大きかったです。
また、初回投資から今回のフォローオン投資に至るまでの様々なディスカッションを通じて、ニーリーや「Park Direct」への理解もより深まりました。そのおかげで、より深い理解に基づいた、アイデア出しや助言ができるようになってきたと思います。直近では、エクイティストーリーに対するアドバイスもさせていただいていますが、1年前ならそんなことは考えなかったはずです。
萱原:Park Directに掲載されている月極駐車場台数は約70万台に達し、エンタープライズ企業への導入も進んできた中、「月極駐車場をデジタル化する」という取り組みそのものは社会に受け入れられつつあるという感覚を持っています。
一方で、今後IPOなどを考えていくにあたっては、支援いただいているステークホルダーの方々の期待を意識しなくてはなりません。自分自身初めて資金調達ラウンドに携わったのですが、複数の投資家の方から高い期待をいただいたことは当社としても自信になったと同時に、ステークホルダーの期待に応える重要性を改めて感じています。
内外の結節点を担う、ファイナンス担当の役割とは
内河氏:厳しい市場環境において、早期に新規投資家の関心を集めて資金調達ラウンドをクローズできたのは、本当にニーリーさんの力が発揮された証ですよね。
そして今回のフォローオン投資にあたっては、萱原さんの存在が非常に大きかったです。私たちは上場株の機関投資家にも共通する見方で、企業分析を行っています。一方で、日々事業に向き合っている皆さんは別の視点で事業をみていらっしゃるので、双方のコミュニケーションのプロトコルが合わない局面もあるんです。そのような中で、萱原さんは私たちの求めている問いに真摯に向き合ってくれましたよね。その姿が非常に印象的でした。
萱原:ありがとうございます。たしかに、今まで考えたことのない切り口の問いも多くいただきました。一方で、それらに向き合う過程で新しい気づきを得ることができ、その気づきを事業推進に生かすことができました。これこそが、ファイナンス担当として事業に貢献する一つのあり方なのではないかと感じています。
内部と外部双方の視点を認識した上で、事業進捗を正しく資本市場に伝えていくとともに、資本市場の評価軸を知り、適切なフレームワークに翻訳して社内に還元しアクションにつなげることは、内外の結節点にいる私のような役割だからこそできることです。個人としてもそのようなことにチャレンジしたいと思っていたので、今回の資金調達はとても貴重な経験でした。
内河氏:私も似たような感覚を持っており、とても共感します。自分たちにはない新しい視点を私も常に意識していますし、それらを取捨選択しつつ、事業推進につなげていくのは素晴らしいと思います。
「Park Direct」を深掘りすることで広がる新たなビジネスチャンスと提供価値
萱原:最後に、今後のニーリーへのご期待についてお話いただけますか。
内河氏:「Park Direct」に関しては、顧客獲得からマネタイズに至るまでのコンバージョンを改善しながら、事業成長していくことを期待しています。そのやり方には改善の余地もありますが、もともとレベル高く実行できているので、心配はしていないです。
どちらかというと、今後のチャレンジは新規事業ではないでしょうか。提供価値の広がりをどう形づくるかは、既存事業を成長させるのとはまた別の頭の使い方が必要です。それに取り組むために、佐藤さんや根目沢さんのリソースをどう配分するかを今後議論していく必要があるのではないかと考えます。
とはいえ、「Park Direct」の成長に向き合い続けることが、結果的にまったく違う新しいビジネスの創出に繋がっていくのではないかという期待も持っています。借主に対しても管理会社に対しても、既存事業の延長線上で、新たな価値提供ができるような予感がしており、そこに真摯に挑戦していっていただきたいですね。その文脈で「Park Direct for Business (PDBiz)」があると思いますし、もしかするとカーシェアリングや時間貸しも対象になるかもしれません。
組織面では、戦略を立てて方向性をきちんと打ち出してメンバーを導いていけるリーダー層がもう少し増えると、成長や変化が加速しそうだと感じているので、そこにも期待したいです。
そしてファイナンス面では、IPOを見据えて上場株機関投資家に対してどのようなエクイティストーリーを打ち出していくかが、最も重要なテーマであり楽しみでもありますね。
機関投資家に向けたエクイティストーリーの構築に当たっては、まず徹底的に会社・事業を理解しきることが重要です。今回の資金調達プロセスにおいて、まさに、今まで以上に会社・事業を深掘りすることをご一緒させていただき、ストーリー構築の材料を作り出せたように感じています。
萱原:ありがとうございます。私もそう感じています。今後も取締役会などを通じて、事業戦略・事業数値に関して議論を継続させていただきたいです。
今日は本当にありがとうございました。