ニーリーの強みと将来性とは。シリーズBラウンドでフォローオン出資した投資家と語る
月極駐車場オンライン契約サービスのリーディングカンパニーとして、モビリティSaaS「Park Direct(パークダイレクト:https://www.park-direct.jp/)」を運営するニーリーは、今回のシリーズBラウンドで、SBIインベストメント様、Spiral Capital様からご出資をいただきました。両社にはシリーズAラウンドからご出資いただいており、今回のシリーズBにおいてフォローオン出資をいただいています。そこで今回は、SBIインベストメント山崎様、Spiral Capital植木様をお招きして、継続してご出資いただいた理由や、お二方から見たニーリーの強み、今後のニーリーへ期待することなどを三者鼎談でお聞きしました。
・2024年8月8日付 プレスリリースより
■SBIインベストメント株式会社 投資部 次長 山崎 卓郎氏
2009年SBIホールディングス入社。SBIモーゲージ(現、SBIアルヒ)配属後に契約事務・営業・企画・社長室・マーケティング・商品開発等、2014年より住信SBIネット銀行にて財務企画・経理・新規事業開発等、2019年よりSBI Ripple Asiaにて経営管理部長としてコーポレート部門を統括、2020年より住信SBIネット銀行にてBaaS事業企画に従事。2021年にSBIインベストメントに参画。早稲田大学 大学院経営管理研究科卒。
■Spiral Capital 株式会社 Principal 植木 修造氏
2020年1月、Spiral Capitalに参画。当社への参画以前は、2018年4月ドリームインキュベータ入社。主に戦略コンサルティング部門にて、ヘルスケア、エネルギー、保険など様々な業界の大企業における新規事業の企画・立案支援に従事。並行して、大企業からのカーブアウトやベンチャー企業の資金調達支援も担当。それ以前は、ZS Associatesにて、大手製薬企業の営業・マーケティング戦略に関するコンサルティングに3年間従事。東京大学法学部卒。
■株式会社ニーリー 財務企画部長 島本 大地
2012年、KPMG有限責任あずさ監査法人に入所。金商法・SEC登録企業等のグローバル企業の監査業務、DD等のアドバイザリー業務に従事。2018年、株式会社ドリームインキュベータにて、新規事業子会社のコーポレート責任者として管理業務、事業売却/MBO等のM&Aを主導。翌年より同社プライベート・キャピタルグループの創業メンバーとして、起業家向けの資金調達・M&A/PMIのアドバイザリー業務を行う。2021年、株式会社ニーリー入社。資金調達及び上場準備を担当。
「この会社なら変革ができる」という予感。全員がウィンウィンとなるビジネスモデルも魅力の一つ
島本:私が入社したのが2021年ですが、それから3年間で、事業が大きく伸長し、当時は十数人だった社員数も10倍を超える規模になりました。
山崎さんとお会いしたのは2021年夏頃だったと記憶していますが、当時のニーリーに興味を持っていただいた理由や背景についてお話を伺えたらと思います。
山崎氏:SBIグループでは「新産業クリエイターを目指す」ことを掲げていることもあり、次世代の社会基盤を作っていくような会社であればどんな会社でも対象にしようというコンセプトで、様々なスタートアップに投資をしています。私自身はSBIグループの金融領域でキャリアを積んできたので、FinTechや金融と親和性の高い不動産・建設・ブロックチェーン・IoT・AIを中心にスタートアップを探していました。
キャリアの最初にSBIグループの金融事業会社で不動産会社への飛び込み営業を経験していたこともあって、不動産業界の紙中心の業務やアナログ文化に課題意識を持っていました。そのなかでニーリー代表の佐藤さんのピッチを聞いて、「こんなスタイリッシュなプロダクトを作れる方が駐車場という地味な領域にDXを掲げて切り込もうとしているんだ」と強く印象に残りましたし、「この会社なら変革できそう」という予感も感じましたね。
島本:具体的には、どのあたりに面白さを感じられたのでしょうか。
山崎氏:不動産業界の市場規模は非常に大きく、かつ私自身が金融業界で仕事をしてきた経験もあり、業界を俯瞰して見たときこのプロダクトを起点に金融サービス含めさまざまなビジネスを展開できるのではないかと考えました。また、ビジネスモデルにも面白みを感じました。SaaSではありつつも、不動産管理会社・借主双方に価値を提供でき、全員がウィンウィンになり非常に良いなと。また、SaaSだけで終わりではなく、その先の市場の広がりが見える点も、我々がずっとニーリーに関心を寄せている理由です。
ニーリーは計画達成への意識が強い。1台でも多く掲載するという貪欲なメンバー
島本:管理会社様や借主様のどちらかに偏ることなく、三方よしのサービスが提供できているのは当社の大きな強みだと捉えており、それが現在の急成長にもつながっていると思います。
SBIインベストメント様に初回出資をいただいて以降、事業戦略や組織面など、ニーリーにもいろいろな変化がありました。そのなかで、今回の追加出資をご決断いただいたのはなぜだったのでしょうか。
山崎氏:最初に出資してから事業の状況を適宜キャッチアップさせてもらいましたが、ニーリーのメンバーの強さに驚きました。とにかく真摯で、全員が仕事にコミットしているようなインテンシティーの強い組織を築かれていますよね。それを目の当たりにしていたので、再度の出資をする上でも、ニーリーなら大丈夫だろうと感じられたのだと思います。
ニーリーはとにかく計画を達成しようという意識の強い会社ですよね。おそらく、代表の佐藤さんがシンプレクス・テクノロジー(現シンプレクス株式会社)出身なのも影響しているのかもしれません。
新卒からコミットメントカルチャーのなかで育った方が経営していることに、信頼感を持ちました。実際の事業計画でも、将来の数字を予測した上で経営上の目標を策定して、それに向けて先んじて手を打っている印象です。佐藤さんが言っているなら信じるしかないと思えましたし、今回の出資も決断できました。
島本:ありがとうございます。メンバー全員がKPIを達成することに強いこだわりを持っていて、新規公開でも1台でも多く掲載するためにはどうすべきか考えて粘り抜く貪欲さはニーリー独自の強みだと思っています。
Spiral Capital、昨年に次いで2度目の出資。エンタープライズ導入のスムーズさが決め手に
島本:Spiral Capitalさんにも、昨年初回出資をいただいており、ニーリーに対してどのような印象をお持ちでしたでしょうか。
植木氏:そもそも弊社は2020年頃から「ユニコーンを目指せる領域に出資しよう」という方針で動いていました。そのなかで、スマートインフラという不動産・建設やモビリティ系の領域を注視しており、この領域の企業としてニーリーに関心を持ったのが最初のきっかけです。
一般的にはバーティカルSaaSはホリゾンタルSaaSに比べてTAM(ターゲットとなる市場規模)が小さいと思われがちです。しかしニーリーの場合は、マネタイズポイントが多いことに加えて、バーティカルSaaSではあるものの、ホリゾンタルSaaS並みの市場規模がある点が魅力でした。
とはいえ、はじめてニーリーと接点を持った頃は、ビジネスモデルが回り始めた時期でした。大きな可能性は感じたものの当時はまだ事例が少なく、その後事例が増えてきたタイミングで、「これなら大丈夫だ」と感じて出資を決めました。
島本:ちょうどその時期には、導入顧客数の増加と並行して、新たな取組みとしてアップセルとチャーンレート(解約率)を低減する施策を行っていました。そのおかげで、過去2年間でARRが約11倍の成長を実現し、今の事業のベースになっていると振り返ってみて思います。
また、こうした急成長のトラクションと低チャーンが今回のシリーズBの資金調達での重要なファクターになったと考えています。振り返ってみて、今回の追加出資の決め手はどこにありましたでしょうか。
植木氏:初回出資以降、計画通り事業拡大しているか、というのは前提としてありますが、今回の追加出資の理由は2つあります。一つ目は、初回出資時はPark Directの導入企業は地場の管理会社が多い状況でしたが、その後も全国に拡大しながら継続して多くの管理会社への導入がすすみ、順調に成長を遂げていたことです。二つ目は、そこから全国規模のエンタープライズへの導入も着実に進んでいることです。
エンタープライズへの導入は、追加開発を要する機能が求められることが多く、関わる人も圧倒的に増えるため営業方法も変更しなくてはなりません。果たしてこの変化に対応できるのかは正直不安もありましたが、近年実績もしっかりとついてきました。おそらくこれが来年以降の成長の基盤となると思っています。
ニーリーのようにスムーズにエンタープライズに導入できている企業は意外と少ないので、秘訣を知りたいくらいです。
島本:理由はプロダクトサイドとビジネスサイドの両面あると思っています。プロダクトサイドでは早い段階から、拡張性やセキュリティへの意識ができていたことが挙げられます。経営陣を中心にエンタープライズ向けのシステム開発をしてきたメンバーが多かったため、エンタープライズプロダクトへの感度が高かったのが功を奏したのではと考えています。
加えて、ビジネスサイドでは、エンタープライズ顧客の課題に向き合えるよう、チーム体制を機能別組織からセグメント別組織への移行を行いました。アカウンティングマネージャーを置き、エンタープライズに必要な要素を持った営業やカスタマーサクセスといったチームを組成したことで、顧客の課題に向き合える組織作りができています。結果として、三井不動産リアルティ様に代表されるようなエンタープライズ顧客へのコミットメントを示せるようになりました。この2点が大きな要因だと私は考えています。
SBIインベストメントは3回目の出資へ。ニーリーへの信頼感と共通認識
島本:SBIインベストメント様には今回で合計3回の出資を頂きましたが、その背景をお聞きしたいのですが、まず3回も出資するケースは他社でもありましたでしょうか。
山崎:同じファンドから3回出資するのは、相当なレアケースなので初かもしれません。当社グループで、複数の投資ビークルでの出資を合わせると複数回ということはあるかもしれませんが、同じところからというのは非常に稀です。
毎回即決というわけではなく、苦労する場面もありました。私と上司の松本とで毎回「ニーリーさんはいい会社です」と社内IRのように(笑)発信してきた結果、社内で「ニーリーっていい会社だよね」という共通認識ができていたので、スムーズに追加出資を進めることができました。
植木氏:ニーリーのような伸びている会社ほど事業トピックが多いので、社内への報告頻度も高くなる傾向にあり、結果的に投資家社内の認知が高まっていくということはあります。
山崎氏:そうなんですよね。今回の追加出資に関しても共通認識を作った上で、もちろん数字の面もきちんと組み立てながら社内で進めていきました。
数的指標で事業の解像度を高め、コーポレート部門とともにビジネスを練り上げる
山崎氏:駐車場のエリア別の稼働率など、これまで明確な数的指標がなかったところに対して、駐車場のオンライン化・データ化によって指標を持ち込むことができるのがニーリーの隠れた強みだと私は思っています。さらにマネタイズのノウハウも磨かれてきていて、オペレーションも含めて綺麗なシステムが構築されています。そうした要素を組み合わせて、ニーリーの企業価値を社内に伝えていきました。
島本:これまでオフラインにしか存在しなかった情報が、DX化の過程で取得可能なデータとなり、事業解像度の向上につながっています。その中で重要なKPIをチューニングして組織戦略に落とし込んでいます。
植木氏:取締役会の運営でも、きちんと事業状況や数字の要因分解ができていて、説得力があります。そこからも組織力の強さが非常に見て取れるなと思っています。
山崎氏:組織面だと、コーポレート部門が非常に強いのもニーリーの特徴のひとつだと思います。特にスタートアップだと珍しいですよね。代表の佐藤さんは会計の勉強もされていたと聞いているので、そうしたバックグラウンドも影響しているのかもしれませんね。
磨かれたプロダクト、強いフロント部門、計数管理などのディフェンス面が絡み合って、ニーリーの強さが出来上がっていると感じます。
島本:会社によっては営業のみを重視する会社も少なくないと聞きますが、そんな雰囲気はありません。むしろコーポレート部門が収集・蓄積したデータを次のビジネスのアクションとして活かせるようにフィードバックをしつつ、ビジネスとコーポレートの両輪で計画の達成に向かって動いていると思っています。
植木氏:コーポレート部門がそこまで機能している会社ってそうそうないですよ。どうしても守りの印象が強くなりがちな中で、必要なデータを集めてビジネスアクションにつなげているのはすごいです。
山崎氏:自分自身の経験からもないがしろにされがちなコーポレート部門を、組織づくりやビジネスづくりにうまく取り込んでいくことで会社は変わっていくと思うので、両輪で運営するノウハウは全スタートアップに向けて是非発信していただきたいなと思います。
数々の可能性を秘めて。決済などの金融分野や脱炭素、モビリティ市場に進出する未来も
島本:当社ではマーケットがなかったところから、月極駐車場のオンライン契約サービスをゼロから作ってきました。現在はカテゴリーリーダーとして実績もついてきており、蓄積されたノウハウやデータを活用した第二の矢、第三の矢を拡大しているところです。今後の当社への期待などがあれば教えていただけますか。
植木氏:ニーリーの場合、これから展開できる領域が複数あると思います。
前提として、「Park Direct」で契約した駐車場を引越しなどで解約したとしても、再び「Park Direct」で駐車場を探してもらえるよう、借主に継続的に使用していただけるかが重要になってくると考えます。そのための施策として、本業である「Park Direct」とシナジーを生みそうな領域としてはFinTechが挙げられます。金融と結びつけることで、引越しが発生したとしても再び「Park Direct」を使う動機になりやすく、借主の「Park Direct」への定着を促せるはずです。
また、脱炭素の流れも見逃せません。脱炭素は、国からの支援内容も拡充されており、追い風が吹いている領域です。膨大な駐車場アセットがあるので、それを活かして脱炭素領域にアプローチするのもいいのではないかと考えます。
どちらから進めるのがいいか、今のところ私の中にも答えはまだありませんが、直近ではFinTechが、中長期的には脱炭素やエネルギー、モビリティなどへの展開があるのかなと期待しています。
山崎氏:SBIグループですので、金融的な発想ではありますが、先ほどお話が出たFinTech・決済領域、保険やカーローンなども面白いのではないかと考えています。自動車は付随領域がたくさんある裾野の広い分野なので、いろいろな領域へのアクセスが可能です。どんどん新しい領域に挑戦していって「車といえば『Park Direct』」という状態を作ることができれば、ニーリーの事業展開領域もグッと広がるのではないでしょうか。
もしすべての駐車場を「Park Direct」で管理できる世界だと、どんなサービスが提供できるのかという視点で長期的に考えていくと、何か面白いものが出てきそうです。Park Directだけではない、総合企業のようになったりするのかなと思います。
島本:ありがとうございます。より成長して多くのことに挑戦できるように、今後も精進したいと思います。本日は本当にありがとうございました。